『ラーメン屋』7番勝負

『妾馬(めかうま)』(またの名を『八五郎出世』)
『芝浜』
文七元結(ぶんしちもっとい)』
『薮入り』
『たちきれ』
等々、
愛しくて愛しくてしようがない人情噺は数あれど、
やはり古今亭今輔の『ラーメン屋』にはかないませぬ。
この噺、留学前にすでに聞いていて
当時も、あ〜、ええ噺や〜と記憶しておったのだが、
あれから4年か5年して
改めて聞いてみるってぇと
嗚咽、号泣、阿鼻叫喚なんですわ。
できるだけ涙は我慢しようとするタチで、
というか泣かせようとしとるなと思うと
なんだか勝負を挑まれているようで
泣かなさにニンピニン扱いされたこともある小生、
なにくそと
一週間前にこのCDを聞きなおしてから
連日連夜
今夜こそは泣かされないぞと
頼もう、頼もうと、勝負を挑んでいるのだが、、、
なまじっか我慢しようとするだけに
嗚咽のこじれ具合がこれまたひどく
口を真一文字に必死の形相、
危うく涙が溢れそうになれば
セックス、セックス、セックスと経を唱え
気をそらせようとするのだけれど
次から次へ涙のつぼは波状に刺激され、
ちょいと調子の悪い一日だった夜なぞは
う、う、うと涙のみならず声までももれまする。


確かに
変にナイーヴなところもあって
この手のことには弱いとはいえ
あまりにひどい毎夜の惨敗ぶり、
興味のある方は是非、
今輔師の『ラーメン屋』を聞いて
どれだけ泣けたか報告していただきたい。


ネタばれなんてしらねぇ、
と乱暴なことを思う私なので
どんなストーリーなのか
ここに書き出そうという腹積もりだったが
アカンねん、もう、
頭の中でストーリー、思い出すだけで
あぶないねん。


それと落語の話しついでに
最近出会ってえらいこっちゃ!と思ったのは
枝雀師の小話集だ。
それぞれ『スビバセンおじさん』、『SR』というタイトルが設けられているが、
さすがに首をつるまで落語に入れ込んだ師匠だけあって
ほんの2,3行の言葉でうならせる。


「このへんにおおきぃて
ふっかーい穴があるとききましてな
いっしょけんめい、ほってみたんですが
みつかりまへんなぁ」


とりわけこれが秀逸。


または
「おじさん、おいくつですか?」
「50歳じゃ」
「50歳でしたらいろんなことありましたやろなぁ」
「50歳いうても
生まれてこの方、50歳じゃ
今年でかれこれ30年になる。
50歳を30年もやってると
やっと50歳がみについてきましたなぁ」
といった小噺などは、
うわー、いやな話やで、
今32歳のおれは、
一年しか32歳をできない、
それで33歳になる、
それでまた
一年しか33歳ができない、
「身につかなさ」が雪ダルマ式に増えていきよる、と思ったわけですわ。