火事場リポート

あんま、おれって、認識に瞬発力がないんだよね。
元旦デートから帰って
駅のホームを上がると
そこに面する大通りに
消防車が地平線のかなたまで横付けにされていて
咄嗟に木造の我がアパートなのでは?と不安になった。
それでおれじゃないよな?な?おれでは。。。ともっと不安になる。
そんな心持でアパートに通じる、
消防車も入ることができない裏の細道を行くと
消化ホースが続いていて
その行き着く先は
つきあたりの我が棟。
二階丸焦げ。
あ〜やっぱりそうだったか〜と茫然自失。
さらにつきあたりにある自分の101号を見てみると
扉はなんの被害もないので
ここでひゃっほーーい、
おれじゃなかったとほっとするもんだから
事の重大さになおさら気づかない。
それでさらに近付いて見ると
二階の一番左側が焼け方がひどかったので俺の部屋の被害はたいしたことなさそうだと
さらにほっとした。
それでぼうっと眺めていると
消防隊員に生存確認等聞かれたり死人のことをこっちから
尋ねたりして
どうもいないらしいとわかって
さらにさらにほっとしてその日は区役所に
泊めてもらったのでした。


翌日部屋を「自己責任」で開けてみると
そりゃーもう驚きの光景、
見てはいけないものを見てしまったとはこのことで
なんでこんなにひどいの?と思っているところで
なにやら真上が出火元ということを聞き、
こりゃもうだめだと思いつつ奥の部屋を覗いてみると
こたつより上まで土砂が来ており
こたつなんてみつかりませんでした。
そして屋根はなく晴天なり。
瞬間的にすべてあきらめ心も晴天なり。


部屋から出て改めてアパートを前から眺めていると
ほぼ真ん中の二階から出火したことになる。
そしてあっというまに両翼に火柱が走り、
出火もとの部屋の屋根を吹き飛ばし
下の我が部屋はえぐられたわけだ。
嗚呼、火の鳥よ。


そんな茫然自失を他所に
乱入してきたのが
彼女の父親と兄貴でした。
作業服をめかしこみ手にはシャベルを持って。
掘ってみると宝の山でした。
まずはパソコンはこの辺だったと言うとさっさと掘ってくれて
火事の前はこのノート型を開きっぱなしで出かけたのだけれど
最初に顔を出したのはモニターの部分。
土塀だったらしく土が上から落ちてきて
パソコンも
あ〜れ〜、ぺったんと広げられていたのだろう
一面状に発掘されました。
最初モニターが見えたとき
四角い穴が開いていると思ったよ。
データの復元ができるということでとりあえず出しました。
申し訳ないので
服はもういいです、諦めました、と言ったら
彼女の父親に
「こだわりのあったものなんだから徹底的にこだわりなさい」
と叱責されました。
この一言に惚れたねと思う暇もなく
掘ったら出てくるは出てくるは
結局、我が部屋は大して燃えることなく
天井が落ち畳が落ち上の土塀が落ちとなっていたので
これらに圧縮されて保存されていたようです。
もう後は、ほんとに宝探し。
隊長!ドリスのパンツがベルト付きで発掘されました!
青のライダースはとろけてもう着られません!
か、カフス発見、カフス発見、ドウゾ。
彼女は彼女で最初に発見したのが
エロ本の束。
フランスから持って帰った無修正のエロ本。
ぱっくりご開帳でご丁寧にテイモウして
鋭い眼差しでカメラのこちらを指差して挑発しているブロンドが
表紙のエロ本。
「縁起いいんじゃないの〜」、「サイテー」などと言いつつ
楽しんでおりました。
父親にばれないかどきどきだったけど。


そんなこんなで火事場仲間みたいなもんもできて
ついこの間の年末にすみ始めた隣の住民の母親は
わざわざ名古屋からかけつけてひたすら涙をさめざめと流してるし
二階のOさんが最初に救出したのが
二本のエロビデオ
(うち一本が『オナニー大饗宴』とかいうタイトルだった)と
パックが火で変色したレモンティー
「え、なんで、最初がこれなんすか!」とつっこんだり、


また別の上の住民は
ダンボール一箱下ろして来て
ぼくにこう呟きました、
「これだけでした」と。
のぞいてみるともう読めそうもない
焼け爛れた文庫本や
半分近く溶けてしまった小さなポーチ、
それから何がなんだかわからないものが一杯に
詰め込まれている中に
人間なら命を落としているだろうなというぐらい
焼け焦げた小さな小さな人形が二体
目に入りました。
ぼくの視線に気づいたのか
ぬいぐるみを指差して
「でも、これが残ってたから、不幸中の幸いでした
これが一番の思い出なので」と
大の男が消え入りそうな声で言うのを聞いて
目を背けちゃったよ、だって泣きそうになったんだもん。
はしゃいでごめんなさいって思ったんだもん。