サレグミンヌとディゴワン



アルザス・ロレーヌ地方を代表する陶器の街、サレグミンヌ[Sarreguemines]と
ブルゴーニュ地方を代表する陶器の街、ディゴワン[Digoin]を、
今日ここに同時に取り上げるのは
適当なチョイスによるものではない。
現在では、何回か前に触れた
サン・クレマンとリュネヴィルを仕切っている
K&G社がサレグミンヌも併せて経営しているようだが、
それだけではない。
フランス陶器の歴史を振り返る上で
この北東の辺境の町と中部の町とのつながりは
欠くべからざるものとなっているのである。


1870年、普仏戦争での敗北により
フランスはアルザス・ロレーヌ地方を奪われた。
このとき、
陶器界の民族大移動が起こるのだ。
サレグミンヌの陶工たちが
質の良い土を求めてディゴワンに移り住んだという。
事実、スタンプにもサレグミンヌ、ディゴワンという
かけ離れた二都市が併記されているものを
しばしばみかける。
言ってみれば、
ビスマルクがディゴワンを作ったのだ。
そして
このディゴワン、
フランスの古いカフェオレボールに興味を持つ人が
幾つか揃えれば、
そのうちひとつはディゴワンのものであるだろうというほど
ポピュラーな焼き物である。


私の写真で言うと、
上の箱状のものがサレグミンヌ、
下の皿がディゴワンである。
どことなくセンスが似ていなくもない。


サレグミンヌの箱にはRIZの文字。
要するに「米」びつなのだが、
こちらはいかんせん、主食は米ではなく、
せいぜい入って二キロほどなので
現在はパスタ立てに、
将来は玄米でもいれようかと思っているあまり融通性のないものである。
文様は好きなのだが。


下の皿は
正直なところ、
それほど惚れこんで購入したものではない。
ディゴワンならもっとチャーミングなカフェオレボールがわんさとあるのだから。
それでもなおこの皿を手に入れたのは
この模様の「意味」を購入したかったのだ。
この皿の印には
ディゴワンの他に
BEARNの文字が捺されている。
カタカナ表記で言えばベアルヌであり、
南西の、スペインとの国境にある旧地方名である。
要するにこれはバスク模様なのである。
フランスの古い食器を探すと、
このベアルヌ模様、
ディゴワンに限らず様々な地方で作られ、
ティーポット、カフェオレボール、コーヒーカップ
はては鍋に至るまでの食器一式をそろえることができるほど
ポピュラーなデザインであることがわかる。
独立運動など、熱烈な政治的闘争などがある地域は
往々にしてナショナリズムと密接に結びついた文化的な盛り上がりが見られるが
このバスク地方の文化などはその典型であろう。


上に挙げたような古い食器よりも
さらに一層洗練された、
パリ、リュクサンブール公園近くにある
バスク織のブティックを一軒紹介しておく。
ジャン・ヴィエール。
日本語でも読めるのでどうぞ。


http://www.jeanvierparis.fr/