『英単語』その19

 書物だとか、中世の学者だとか以上に、授業は全くと言っていいほどひとつの言語で行うことができかねていたのだが、というのも依然、あまりに亡羊であまりに纏まりがないので書くための言語を固定できなかったのだ。教育から取引、社会的な人間関係に至るまですべて、フランスの言葉を話すという、国家主導の習慣が果たされ、それが以下のような極端な状態に至らしめるわけである。「オウホッシタマフ、ジョオウホッシタマフ」といった文言は、ノルマン風に喉を鳴らして発音されたのだが、議会が布告する法案への王家の同意を今でも示すものとなっている。ace、 deuce、 trey、 quart、 cink、 siz、などと、diceや cards、つまり≪さいころ≫や≪カード≫ゲームでは数えられていたし、上で触れた、arrearage*1、devise*2、domain*3、homage*4、manor*5、rent*6、serjeant*7、traitor*8、そしてvouchsafe*9、といった類の用語全て、そしてchanceやhasard*10といった如何ともし難い働きを示すもの全て、また例えばraven*11、pillage*12、ribald*13、villain*14、revelry*15、といったものに代表される横暴な征服民の悪行を示すもの全て、つまり最終的にはシェークスピアにまで見られる暴力的だったり悪い意味の語すべて、また稀にしか用いられないがcharity、faith、grace、mercy、peaceといったものも加えなければならないのだから。十三世紀になると、自身の言語への情熱が生じ、そうして「詩」が復活することになる。フランス語でもない、というのも次の歌の最初の行≪Dieu vous saue, dam Emme[原注] !≫を見れば、どんなフランス語を話していたのかと言うことになるし、またあまりにもぎこちないお国の言葉で記されてもおらず、全ての文章、公的であれ私的であれ、全てがラテン語でなされるようになっていた。『創世記』や『出エジプト記』の詩篇と『ナイチンゲール』や『梟』のそれとが、我が国の『デンマーク人ハヴロックの唄』や『薔薇物語』によって忘れ去られたが『アレクサンドル王物語』といった「物語」の翻訳によって途切れた伝統を再び結び直すことになるのだ。 これらの叙事詩のひとつから適当に幾行か抜き出せばフランス語と英語が混合していると言うよりも並置されているのがはっきりする。つまり二つの言語が混ざり合っているのは意味的なものだけなのである。


That us telleth the maistres saunz faile
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And to have horses avenaunt
To hem stalworth and asperaunt
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 一詩行の半句ととしてであれ、二つの韻としてであれ、我が国の語がこういった僅かな断片にも認められ、はっきりと意図的に浮かび上がっている。慎ましさであれ癖であれ、言語への徹底した感覚がこれほどまでに、いつでも一時代特有の言語の最も正当な典型とこの「研究」がみなすところの詩に現れているのである!長い間そしてとりわけ、キングイングリッシュを切り開いたチョーサーに於いて、英−仏語の二元性が確かめられるが、時折奇妙な修辞的方法によってそれぞれの要素が深くひとつに結合している場合もある。すなわちそれは結び付けられたものであれ元のままであれひとつの表現の中に同じ観念を繰り返すというものである。依然イギリス人以外のサクソン人そしてノルマン人であるなら、一方のはサクソン人読者のためであるかのように、また他方のはノルマン人読者のためであるかのようなのである。例えば、act and deed*16、 head and chief、 mirth and jollity*17、 steedes and palfrey*18といったふうに。こういった組み合わせこそが奇妙な文彩なのであり、文章で記される(英語での傑作や誓いの文章)ことによりこの言語の二重の起源を定着させることになる。近代英語詩の最も妙なる文体のひとつである、二つの形容詞の間に名詞をひとつ置くということはここに由来する。というのもここで問題になっていることの典型的なお手本はまずもってこのように言ったのだから。


I see the woful day fatal come *19


単純にこれは、この≪日≫という語に付随する≪運命≫という語が、その生まれがどこであれ、この詩に親しむ者それぞれに等しく心を打つようにするためなのである。
 すぐに慣用となったひとつの表現が、多くの読者の理解できないままであり得るはずもなかったのである、すなわちキングイングリッシュである。さてどの王なのか?それはエドワード三世である、それではどんな英語なのか?それは、上流階級すべてから民衆も合わせて話されていたものであり、女王エリザベスや英国の演劇全盛期まで続いた英語なのである。


[原注]『農夫ピアス』103行目より。

「メモ」種本をかなり端折って要約している印象。

*1:負債

*2:遺贈

*3:個人所有地

*4:服従

*5:荘園

*6:地代

*7:守衛官

*8:反逆者

*9:賜る

*10:偶然

*11:略奪

*12:略奪する、略奪品

*13:口汚い、下品な

*14:悪党

*15:酒宴

*16:行為

*17:陽気

*18:乗用馬

*19:正しくは≪I say the woful day fatal is come≫。チョーサー『カンタベリ物語』より