竜涎香のことなど

jedisunefleur2004-08-22



フランスという国は
辞書大国だ。
かくいうわたしも
リトレ大辞典
十九世紀ラルース大辞典
そしてグラン・ロベール大辞典を
CDロムやらラルースの場合は信じられないことにDVDで
所有している。
テクストを読んでいて
普段は仏和辞典でことをすませるという
あんまりいただけないことをやるのだけれど
やっぱり気になるなぁという語があれば
上記三つの大辞典を渉猟することにしている。
そのうち、
あまりに豊穣な記述のため
テクストを読んでいることを忘れ
辞書そのものに熱中してしまうときが
ままある。
先日も
Eblouir(エブルイール)という語を調べたときにそれが起こった。
日本語で言えば、
まぶしくさせる とか
幻惑する とか
ここから転じて
単に惑わすとかいった意味なのだが、
とりわけ語源の話が興味深いものだった。
断定を避けつつも
上記の辞書が一様に
伝えてくれたのは
E+Bleuから来ているということだ。
そう、ブルーを前にすれば、まぶしいだろ?というところからだというのだ。
いやー、この語を思いついた奴、
納豆を初めて食った奴なみに
天才だと感心してしまった。
うさんくさいほど抜けるような青空を見たときの喜びや、
大阪で見たフェルメールの『青いターバンの娘』を思い出した、
そんな強い喚起力を伴った語源だった。


先日、パリで世話になった人が帰国した。
これで世話になった人を送るのは二度目だったが
あのさみしさったらないね。
老齢に達してから友が死ぬとなんともいえない
喪失感に襲われるということを
若干30にして垣間見てしまったよ。
世話になったから一肌脱いでやろうじゃないのと
帰国準備の手伝いをさせてもらった。
この人、モード関係の人で
ものがなんやかやと出るわ出るわで
帰れるんかいな?といった感じだった。
それにそれぞれのものに愛着があるらしく
捨てられないという。
んなアホな。帰るんやで。
とりあえず、かわいいという理由で捨てないというのは
無しでという方向でガンガンものを捨てた。
捨てても捨ててもものが出てくる。
この香水の瓶かわいいでしょ?という。
中身ないがな。捨てぇ、捨てぇ。
これもかわいくて。。
何の役にたつんや?
捨て。
これも。
捨て。
あれも。
捨て。
タイルも何枚かあるんだけど。。
んなもんもっとってどないすんねん!
はいはい、おれが捨てたらと
手にとって見れば、
もうとくわ♪
だって
エブルイールなんだもの。
フェルメールブルーなんだもの。
と頂いたタイルが写真。
カフス置きにさせてもらった。
ちなみに一番上のアホ丸出しのカフスを
ごくありていに
「うんこ号」と呼んでいる。
形状のみならず
元々華やいだこんじきがじょじょにくすんで
うんこいろになるからだ。
お食事中の方ごめん遊ばせ。
まぁどや!どや!もの自慢は
さておき、
これがエブルイールな青なわけです。

閑話休題
今日、辞書について記述したのは、ほかでもない
スジャクさんid:sujakuのところで話題になっていた
リュウゼンというそのくっさい物質を私自身
悪の華』で二、三印象的にこの語が用いられているのを見て
(ひとつは「旅へのいざない」もう一つは例の売春婦か他の異国の女を歌った詩だったかと思う)
兼ねてから興味を持っていたということと
またラルースの文体というものを一度なぞっておきたいといった
いろんな理由により
十九世紀ラルース大辞典より
その記述を引用しようと思ったからだ。
ただし、十九世紀の記述なので
その点、うのみのございませんよう。
以下で取り上げるのは
Ambre Grisのみなのだが、
Ambre Jauneというものもある。
Grisは灰色でJauneは黄色だ。
後者はあの琥珀という石である。
リュウゼンと琥珀関係があるんですなぁ。
ちなみにこの琥珀
紀元前の頃から、光る物質としてギリシアでももてはやされていた
ものらしく、なんと、「エレクトロン」と言ったそうなのだ。
そう、電気の語源なのである。

Ambre Gris<竜涎香>、別名Ambre Vrai〔真性アンブルとでも言おうか?〕は、固形物質、灰色がかった色をしており、麝香に似た臭気を放つ。手の熱で柔らかくなり、蝋のように溶解する。八十パーセントは<アンブレイン>という油脂からなり、硝酸と反応させて<アンブレイン酸>に変化する。Ambre Gris、単にAmbreとも言うが、多少の差こそあれ、大量の固まりとなって、幾つかの海上、とりわけ、マダガスカルモルッカ諸島インドネシア〕、日本、コロマンデル〔ニュージーランド〕沿岸において、浮いているのが見られる。かってはこの原因に諸説紛々だったが、今日では、マッコウクジラ類の腸内で形成された結石の一種とみなされている。香水製造業者が、<竜涎香>を用いオイル、ポマード、石鹸などといった様々なものに調合し匂いを付けている。医師もまた、鎮痙剤として投与することもある。加えてかつては顕著な催淫反応を起こすものとみなされ、これにより、ニコラ・ド・サレルヌの元気薬、王のエキス、イタリアのエキスなどといった様々な薬の調合に含まれたのである。


L’ambre gris, ou ambre vrai, est une subsistance solide, de couleur grisâtre, qui exhale une odeur analogue à celle du musc. La chaleur de la main le ramollit et il fond comme la cire. Il est composé, pour les quatre cinquièmes, d’une matière grasse appelée ambréine qui se convertit en acide ambréique sous l’action de l’acide azotique. On trouve l’ambre gris, ou simplement l’ambre, en masses plus ou moins volumineuses qui flottent à la surface de certaines mers, surtout sur les côtes de Madagascar, des Moluques, du Japon et de Coromandel. On a fait autrefois beaucoup d’hypothèses sur son origine, mais on le regarde aujourd’hui comme une sorte de concrétion morbide formée dans les intestins d’une espèce de cachalot. Les parfumeur emploient l’ambre gris pour aromatiser diverses préparations, telles que des huiles, des pommades, des savons, etc. Les médecins l’administrent aussi quelquefois comme antispasmodique. On lui a en outre attribué une action aphrodisiaque marquée et, à ce titre, l’a fait entrer dans diverses préparations pharmaceutiques, telles que la poudre joviale de Nicolas de Salerne, l’essence royale et l’essence d’Italie, etc.

前4分の3ほどの説明自体は面白いとは思わなかったが、
いやいやいやいや、「顕著な催淫作用」ですって。
アフロディーテ的作用→催淫作用、なかなか色気がありますなぁ。
「ニコラ・ド・サレルヌの元気薬」!
「王のエキス」!
「イタリア!(古来からあちらのほうも勇名を馳せていたわけだ)のエキス」!
フレンチ赤ひげ薬局!
いやいやいやいや、読んでよかったです。
個人的にはその紛々の贋諸説というのを知りたいんだが、
こういうのは案外百科全書に当たったほうがよかったかもしれない。
いやともかくだ、
「老境のかれは、[中略]マッコウクジラの腸内結石を砂糖といっしょに挽き砕いて混ぜ、すばらしく気分がよくなる...」(スジャクさんid:sujakuより引用)という件、
にわかに、
エロい香りが漂ってきたな。
あの麝香とか竜涎香といった動物的なエロい香りが。


「竜のよだれ」!かぁ。


「すばらしく気分がよくなる」!かぁ。


次回は「私は花と。。。」の出典箇所にします。