Mallarmé gourmand?

とりあえず、訂正を。
おとつい、昨日の分。
ブランショのテクスト。
il est à pressentir que...
は、あーら、これとっても文学的言い回しだけど
Nous pressentons que
と同じよ、という説明をネイティヴに頂いた。
要するに非人称のイル。
こういうの読み取れないうちはまだまだだなぁと反省。
ボードレールのテクスト。
charrierは酔いを運ぶだそうで、
天神茄子さん、正解!
ぼく、はずれ!
それとまた、
女優名につける定冠詞「ラ」
のことについて聞かれたので
心配になって調べてみると
確かにそうなんだけど
昨日、実は気にしていた他の定冠詞について
おぉこれはそうなんじゃ。。。というのを発見した。
celle (la science) des Paracelse
という表現。パラケルススの冠詞が何故定冠詞複数なのか?といった疑問だ。
私はパラケルスス系の人々と勝手に解釈していて、
まぁその可能性も否定はできないけれども、
「かの偉大な」というニュアンスを出すために
定冠詞複数を取るそうな。
ロワイアルのLeの項目にありました。
「かの偉大な」としたほうが、ボードレールらしい皮肉った味わいが出るんじゃないかと。




書けないという、
十九世紀半ばから二十世紀にかけて文壇詩壇を席巻したこの伝染病は、
(お、フランス語的言い回しだ)
余りに多くの大文学者たちが吹聴したが為に、
極めて基本的な問題を忘れさせてくれるのに役に立った。
つまり、
書けないということは、
書くセンスがないということを。


渡りに船だ。
私の最も読みたくないマラルメの残したものを熟読するときが来た。
マラルメは書けないと言いいつつも、
ひとりでまさしく狂喜乱舞して書き上げた月刊誌を八号ばかり残している。
手を変え品を変え、性もかえ、詰まるところほぼ一切自らの名を語らず、
アクチュエルな文化を書きまくったのだ。
それが『最新流行』という雑誌だ。
モード雑誌と言われるけれど、
内実は、『ぴあ』みたいなもので、
モードを中心に、
劇評、
劇案内、
文学作品の紹介、
お勧めの保養地、
それに広告までも
自分で揃えて書き記したのだ。
謎の雑誌といわれるこの珍書中の珍書の中には
もちろんグルメコーナーもある。
それが今回日本語にしてやろうと思うところのものだ。
かなーりつまんないし、
私には何も読み取れないので、
煮て食うなり焼いて食うなり黙殺するなりしてくらはい。
今回は世界最強と謳われる日本語訳のマラルメ全集の訳及び注記を大いに参考にしたものです。
ほんまかいな?そこまで言っていいのかいな?というところもあるけれど、
注記の方がきっと面白いかと思い、のっけました(私にとってはただの暗号ですが)。

1874年9月6日号
「黄金の手帖」
第一葉
≪海辺の午餐のメニュー≫*1
大ぶりな魚介類ではありません。パリから運ばれてくるものなので。野菜もはっきりとは指定致しておりません。このメニューはブローニュからアルカションまで*2用いられますので。

牡蠣、アンチョビのカナッペ添え
――
サン=マロ風*3舌平目のフィレ
マントノン夫人風羊のコトレット*4
モンペリエのバター風味、伊勢海老のシュプレーム*5
デュロック将軍風チキン*6
――
ポルト酒風味のシャーベット
――
七面鳥の雛
ホウボウ*7


サラダ
――
海の貝の叢*8
土地の野菜
――
生アーモンド入りプラリネ味*9のアイスクリーム
――
デザート
――
≪ワイン≫
サン・ブリ*10
ニュイ数種*11
レオヴィル*12
オー・ブリオン*13


≪「ブレバン亭」おもてなし掛け≫*14


LE CARNET D’OR

PREMIER FEUILLET
MENU D’UN DEJEUNER AU BORD DE LA MER

  • -

Pas de grosses pièces de pêche : elles viennent de Paris. Pas de légumes indiqués d’une façon précise, ce menu devant servir de Boulogne à Arcachon.

Huîtres, Canapé d’Anchoix[sic]

  • -

Filets de Sole à la Saint-Mâlo[sic]
Côtelettes de Mouton Maintenon
Suprême de Homard au beurre de Montpellier
Poulet à la Duroc

  • -

Sorbet au Porto

  • -

Dindonneaux nouveaux
Hirondelles de mer



Salades

  • -

Coquillages de Mer en buisson
Légumes du pays

  • -

Glace pralinée aux amandes fraîches

  • -

Dessert

  • -

VINS
Vin de Saint-Bris
Vins de Nuits
Léoville
Haut-Brion



LE CHEF DE BOUCHE CHEZ BREBANT

*1:1870年のコミューンを境に料理の世界は大きく変わった。新聞に食事のメニューが盛んに紹介されるようになる。少し前までは必ずしも明記されていなかった前菜、サラダ類、デザート類、飲物を併記するようになった。

*2:当時流行の生活の先端であった大西洋岸

*3:大西洋岸の漁港の名を付した白葡萄酒とみじん切りエシャロットを土台とする魚料理のソース。

*4:骨付きの羊肉をバターで焼き、卵黄でつないだシャンピニョンのピュレなど加えたソース・スビーズを片面に塗り、パン粉をまぶして焼き上げた料理。ソース・ペリグー(トリュフの汁とみじん切りを加えたソース・マデール)をかける。ルイ14世晩年の妃にちなんだ命名

*5:南仏の町の名を冠したバターソース。ほうれん草、コルニション、ケーパー、塩抜きアンチョビ、生卵及びゆで卵の黄身、オリーヴオイル、レモン汁と粉唐辛子(カイエンヌ・ペッパー)を、シヴリーの合わせバター(シブレット、われもこう、パセリ、セルフイユ、エストラゴンの五種の香草を同量づつ混ぜ、エシャロットやバターを加えて、うらごししたもの)に加えて作られる。

*6:ナポレオンの将軍の名を借りた鶏料理の古典的な一品。子牛のフィレ肉、トリュフ、茹で牛タンを加えたミルポワ(玉ねぎ、にんじん、ハムの赤身のソース)が詰め物

*7:(魚類)Hirondelle de mer 鳥類のアジサシも同じ表現を用いるがメニューの順からして魚類と推測される。

*8:十九世紀に流行した華やかな魚介類の立体的盛り付けの方法

*9:煎りアーモンドをカラメルで絡めたソース

*10:シャンパーニュ地方オークセールに近い土地の白葡萄酒

*11:ブルゴーニュ地方のコート・ド・ニュイ産の赤、ロマネ・コンティ、クロ・ヴージョ、ニュ・サン・ジョルジュ等。1874年は歴史に残っているが、メニュー作成時には1865年、70年、73年等の葡萄酒が評判だった。

*12:ボルドー地方の赤。Léoville-Lascases, Léoville-Poyferré, Léoville-Bartonの三つのシャトーの総称。十九世紀の最高の年は1865年とされる。

*13:ボルドー地方ぺサックに産する、グラーヴの赤。ボルドー最高の銘柄とも言われた。

*14:「シェ・ブレバン」は、以前パレ・ロワイアルで開業していたポール・ブレバンが1863年にポワソニエール大通りとフォーブール・モンマルトル街の角に開いた料理店。三十年間、文壇人、ジャーナリストが出入りし、定例会が開かれたレストランとしても有名。この署名は、王侯貴族の食卓責任者「シェフ・ド・ブーシュ」に使われていた古い名称から借りている。ここでの「シェフ」は厨房長ではない。貴族出身者が配属されたルイ14世時代のメゾン・ド・ブーシュと呼ばれた王室の大膳職を復活させたナポレオン三世の宮廷にはオフィシエ・ド・ブーシュがいた。これは、十九世紀では「黒い」服を着用して配膳等を指揮した。最終的には、雑誌編集部でメニューの文章が作成されたこと、及び、≪ブレバン亭おもてなし掛け≫という実在の人物などいなかったことの証拠であろう。同じ季節と規模の、実際のポール・ブレバン作成の昼のメニューを見ると、『最新流行』のメニューより主な魚と肉料理の品数がずっと少なく、調理法が簡素であり、人名地名も少ない。海の別荘の昼の宴会料理を主題に、ガストロノミーの文法に則ってマラルメが濃密な一個の文学の「定型作品」に挑んだと解釈することも可能である。例えば、「マントノン夫人風」/「デュロック将軍風」(女性/男性、アンシャン・レジーム/帝政、羊/鶏)や「ソース・サン・マロ」/「モンペリエのバター風味」(海/陸、北/南)の対称性は、料理の作法に従うと同時に、詩の技法に属するものである。