十九世紀フランスのとあるメニュー

id:tristanoさんに教わった
ビルスマのCDをゲット!
残念ながらマイスキは見つかりませんでした。
幾つか有名な曲で
冒頭でもっていかな、どこでもっていくねん!という曲がありますな。
かのカラヤンは『運命』のリハを行なう際、
最初の三音をひたすら練習させたと言います。
じゃ・じゃ・じゃのみ。
それと同じくバッハの無伴奏チェロ組曲
頭でもっていかなどこでもっていくんや!といった曲でしょう。
とりわけ私のような楽譜で読めるものといったら
ト音記号ぐらいのずぶの素人にとっては。
で、このビルスマの冒頭は、いつでも泣こうと思えば泣ける、
あぁおれもとうとう役者になれる!訳者の方がいいが!
ウグ、ウグググ、ウガガガ(感動してるんです)といったところです。
マイスキと比較できないのが残念ですが。
こういう誰々の演奏じゃなきゃいやだぁといった
ある種気取って見られる嗜好も
パリ生活者になって気付いたことですが
きっと
ヨーロッパの文化的背景では
大衆的な感覚としっかりつながっている趣味なのでしょう。
先だっても
大麻なんか朝飯前、食前食後就寝前のひと時に
やってるわよ風情の、
21世紀のハスッパを絵に描いたような
姉ちゃん二人が突如
魔笛』の有名なアリア(ひたすらソプラノでハミングするやつ)をはもって
ケラケラ笑ってるのを見て
かなわん。。。と思わされたし、
何よりも
メトロに乗り込んでくる
まさしく玉石混交の演奏家たちを
子供の頃から聞いてれば、
自然と身に付く能力でしょう。
かつて
日曜日の朝、
何かの用事で
メトロに乗り込むと
演奏家が稼ぎ時とばかり
群れなし連れだって乗り込んでくるや
ご機嫌で演奏を始めた。
これはいつもと変わらない情景なのだが
普段と違うのは
実にうまかったってことだ。
う〜うまい、さぞかしチップ弾んでもらえるだろうなぁ
ずっと俺が降りるまで演奏してくれないかなぁ
5ユーロで。などと
思ったところで
いつかは切り上げ時となる。
けれどそのときばかりは
演奏が
終わったとたん
車両中が拍手喝采ですよ。
チップどころのさわぎじゃない。
ブラヴォなんて言い出す人が出る始末。
あぁあれは
今思い出しても目が充血する。


音楽的感覚っていうのは
やったことのないものにとっては
実に不思議で
我が相棒は中ぼうの頃チェロを、
幼少の頃から二十年近く
ピアノを
やっていたそうで、
そのくせ作曲家とか
曲名はもとより演奏家なども
全く知らず、
この曲なんつぅんだっけ?と私が問いただしても
ひいたことあるけど知らないなどと、平気でいう。
一方、今、鳴った楽器何?と聞くと
何々と即答する。
私にとってはどうしても理解できない感覚なのだ。
一時期、ジャクリーヌ・デュ・プレという伝説の女性チェリストのCDをかき集め
彼女にまつわる映画を見て、ある種の異常さが描かれていたのだけれど
そんなことなどまったく知らない
我が相棒にデュ・プレの演奏を聞かせると
すぐに、
情熱的過ぎてきもいの一言。
私がさんざCDかき集め、ライナーノートを読み漁り、映画まで見て
なんとか感じることができたものを
あっさり感じられているような気がして
文字人間の俺って一体。。。かなわん。。。と思ったこともあった。


さてと
今日も暴挙は続きます。
ただ知識もツールもない私には
未邦訳のメニューを日本語にするのは不可能だということがわかりました。
また日本の高級レストランのメニューに見られる
単語の盛り合わせ的な表現は
フランス語のできるだけ凝縮されるのがよしとされる
あの特質にもっとも近い日本語じゃないかとふと思った。

1874年10月18日、第4号


「黄金の手帖」
食卓、ご婦人たちによる室内装飾、
庭園及び気晴らし


第七葉
≪家庭での晩餐のメニュー≫*1


ポタージュ・ジェルミニー*2
――
バター、小海老、アンチョビ及びオリーヴ
――
鱈のオランダ風*3
ブルターニュ地方風プレサレ子羊のロース *4――リ・ド・ヴォー、トマト・ソース*5
――
ヤマウズラのロースト――シコレのサラダ
――
胡瓜の生クリーム和え冷製*6
小型チョコレートのスフレ
――
女主人の選んだデザート――菓子類
――
コーヒー及び高級蒸留酒、≪アンフー未亡人≫製純正リキュール*7
「デュベック」香料つきロシア・タバコ及びハバナ産のタバコ
葉巻。「パルタガス」又は「カバナス」(グラントテル)*8
――
≪ワイン≫
普段のもの。「リール・ヴェルト」と「コート・ロチ」*9


≪ブレバン亭おもてなし掛け≫


LE CARNET D’OR
LA TABLE, L’AMEUBLEMENT FAIT PAR LES DAMES,
LE JARDIN ET LES JEUX


SEPTIEME FEUILLET
MENU D’UN DEJEUNER DE FAMILLE


Potage Germiny

  • -

Beurre, Crevettes, Anchois et Olives

  • -

Cabillaud à la Hollandaise
Cuissot de pré-salé à la Bretonne—Ris de veau à la sauce tomate

  • -

Perdreaux rôtis—Salade de Scaroles

  • -

Concombres frais à la crème
Petites caisse de Soufflé au chocolat

  • -

Dessert choisi par la Maîtresse de maison—Pâtisseries

  • -

Café et bonne Eau-de-vie, Liqueurs authentiques de la Veuve Amphoux
Cigarettes russes au Dubèque aromatique et de la Havane
Cigares : Partagas ou Cabanas (Grand Hôtel)

  • -

VIN
Ordinaire : l’Ile Verte et Côte Rôtie


LE CHEF DE BOUCHE CHEZ BREBANT.

*1:おもてなしのメニューのときよりも幾分単純。汁物、前菜、魚、肉、サラダ、菓子の構成と内容は、やはり「反復」と「同類」を避け、順々に品が運ばれるキュジーヌ・ブルジョワーズの基本形。チーズがないのは、当時は原産地以外では今ほど食されていなかったからだ。

*2:だし、オゼイユ、バター、卵黄とクリームで作る。焼いたパンを添える。十九世紀のメニューに頻出。

*3:バターと卵黄を台にしたソース・オランデース

*4:プレサレ。海辺の草が塩分を含む牧場

*5:リ・ド・ヴォー。子牛の胸像

*6:フランスの胡瓜は、瓜くらいの大きさまで成長させ、皮をむき、種を刳り貫いて、太めに輪切りにされる。渋みは少ない。生クリームのドレッシングとなじむ。

*7:数種類のリキュールの銘柄。シナモン味のリキュールが美味しく、十九世紀には滋養効果があるとされていた。ロマン主義時代のメニューにはまだ未亡人ではなく「アンフー夫人」として登場する。

*8:新しく建ったオペラ座近くのスクリーブ通りにある高級ホテル。葉巻の自家製ブランドであろう。なおこうした香料入りの「オリエント」なタバコは、若いときからマラルメ自身の趣味であった。

*9:イール・ヴェルト。メドック地方。コート・ロチ。コート・デュ・ローヌの町名とその地の赤。こくと香りがそなわっているとされる。