映画品評会

プレタポルテより




ここんとこ立て続けに映画を見た。
映画を立て続けに見るってぇと
二十代半ばちょい前から
三十代手前までな〜んの勉強もすることなく
ただひたすら映画を見て時間を潰したことを思い出してしまって
嫌な気分になってしまう。
タイム・イズ・マネーとはよくいったもので
さぼった時間にはしっかり利子がついてくるわけです。
それが元金もろとも返せるのかどうか。
映画なんて見ている場合ではないのに。


ソフィア・コッポラ(コッポラ・フィーユ)を
二本見た。
『ヴァージン・スーサイド』と
ロスト・イン・トランスレーション』だ。
私にとって
既に聞こえていた悪評ほど嫌なものではなかった。
とりわけ前者はこの人そこそこ本読んだ人なんだろうなぁ
という印象を受けたし、
どちらの映画にも伺えたのは
ちょっとしたアイデアを豊富に持っている人なんだろうなぁということだ。
後者は知られるように日本が舞台の映画で
大雑把に言えば、
主人公が日本の文化にクールに戸惑うといった体のものだ。
これといった筋もない、というのは私好みだけれど
わざわざ日本に行ったんだし、
カメラに収めた日本の映像はできうるかぎり埋め込んでやろうといったように見える姿勢は
編集って楽しいんだろうなぁと思わせる一方、
私自身がそういう学生だったから(今もだな、多分)よくわかるのだけれど
知ってることを無理クチャ詰め込んだ
三流レポート臭ふんぷんたるものを感じずにはいられませんでした。
異文化を描くというのは思っているほど簡単じゃないというのが
確認させられました。
人の知的吝嗇、誇張癖が結局のところサラブレットでも
邪魔になってしまう模様です。
しようがありません。


次は『シカゴ』だ。
ただただおもろい。
よきアメリカというものがあるってことを
久々に思い出させてくれた。
二十一世紀にミュージカル?なんて侮ることなかれ。
なんだかんだ言って、
映画はハリウッドだけでよしという
極論、暴論をゲップしそうになって
抑えるのに難儀しているところだ。
ソフィア・コッポラが吹っ飛びました。
ちなみに
フランスのミュージカルと言えば
ジャック・ドゥミの『シェルブールの雨傘』やら『ロシュフォールの恋人』たちですが
彼の白黒ミュージカルでアヌーク・エーメ(『男と女』なんかに出てる人ね)が
謳って踊ってる映画があるんだと!
何年も前からてぐすねひいとるんですが
まだですか。
ヴァルダばあさんに三顧の礼をつくして了承を取り付けてほしいもんです。


はい、次『プレタ・ポルテ
愛してやまないエーメが
徐々にお化けのようになっていくそんな一つの悲しい過程を示す映画でもあるのだけれど
服にまつわる映画というのは
『モード・イン・フランス』[ウイリアム・クライン、唄はゲンスブール]は
のっけからあきらめていたけれど
この『プレタ・ポルテ』なんてなんとかお話を作ろうとしつつも
おそらくは意図的に
あざわらうかのように
んなもんふっとんじゃうという代物に堕しちまって、もしくは昇華しちまって
マストロヤンニとかソフィア・ローレンとかアヌーク・エーメとか
ロシュフォールとかブランとか
ジュリア・ロバーツとか
モード界からもカメオ程度とは言え
ラクロワとかリンダとかいうデルモとか
ゴルチエに至ってはセリフまであって
(レストランのボーイにロゼか赤かと尋ねられて
間髪入れずに「メランジェ」[混ぜて]と答えて
両方注がれたワイングラスを見て
例の如くそそっかしくも「ボンヌ・クルー」[いい色だ!]なんてうっとりしてたりする)
思い出せないぐらいの大物たちが出ているのに、
こういった冗長な説明なんざ、みーんなどうでもよくなるような結末で
この結末のアイデアを使うために二時間はちーと長すぎるけど、
最後はやりやがったなアルトマンという映画でした。
話の筋を機能させないけれど存在しうるというのは
映画ならではのような気がして嫌いにはなれませんが。
ところで
いつ頃から、ファッションショーでデルモたちが歩き始めたのでしょう?
これが最近の興味の一つなのです。


最後に
ヴィドック
オタクが西洋化しただけの映画だろと
今までしらをきりつづけてきたのだけれど
やはり1830年パリという舞台設定が気になって
見てしまった。
ノートルダムの鐘』など、同じ時代が背景の映画など
探せば幾つもあるのだろうけれど
私の知る限り、
ノートルダム寺院に前庭があるのを見て、
あれ?オスマンはまだなんすけど
そこには家が密集し、
道には豚や鳥や人間のうんこおしっこが
残飯にまみれてたえずジュクジュクしてるとおもうんすけど
という考証癖というのか
そういったちょっと知ってるからといってイジワルになっちまう
悪癖のせいで
すべからく楽しめたためしはありませんでした。
オタクをなめちゃーいけませんというのが
この『ヴィドック』でした。
猟奇殺人の犯人追跡というのが
大まかな設定で、
このディテールがなければ
案外つまらんサスペンスかもなぁとも思いましたが、
いやーもうそのディーテールにただただ感服。
「暗黒のオスマン以前」という私の想像とジャストフィットして
見ていてここちのいい映画でした。


とりあえずは。