サルトル『汚れた手』続


仏文界のビッグネームが二人逝きました。
これを期に何か思考することもできず
あ〜おれやっぱ文学むいてねぇよなぁと違う意味で悲しい気分になりました。
やっぱりねぇ高三のときの担任の先生が悪かったんよ、
国語の先生で
やけにかわいがってくれて
文学部行け文学部行けと
数学科に行きたいんすけど、ほんとはおれって言ったのに
哲学みたいなことするのよ、数学科って
だったら文学部でいいじゃない?って
おれの何を知ってそんなこと言ったのか
確かに小論文ははっきりいってよくできたよ、
でも所詮高校生よ、いがぐり頭の高校生よ
たったそれだけで図るなよ、
だいたい英語
大したことなかったやんか、
八方塞の学部に俺を入れるなよと
せっかくかわいがってくれた人への恨み節になるのでこんな話はやめておこう。
でも、気になったことがひとつ。
デリダの死因、なんで公表されんてんの?ってことなんよ。
欧米人は
死因不明とか心不全とかかなりアバウトなのが普通のように思ったんだけど。
すい臓癌ってめっちゃ限定してるやん。
たったこれだけ、死亡記事見て思ったのは。
ヴォワラ、セ・トゥ。


またしばしば自分に腹が立つのは
音の覚えの悪さだ。
もう、これはどうしようもないていたらく
へぇこんな曲あるのかぁとCD買って聞いてみると
この曲なのかよ〜って既に聞いたことのある曲だったりするのだ。
歌詞がついていれば覚えるけど
音だけだと覚えられない、
何か人として非常に損した気分になるので
無理矢理、聴いた音楽に連想した言葉をへばりつけてやろうということで
DVD『汚れた手』のクレジットにあった曲の備忘録。


バルトーク
『弦楽器と打楽器とチェレスタのための音楽』(1936)
ジョルジ・レヘル指揮、チェコ・フィル
管弦楽のための協奏曲』(1943)
ムラヴィンスキ指揮、レニングラード交響楽団


前者が『汚れた手』にかかっていた曲だ。
連想するイメージはというと、
浮気のばれた旦那が鬼嫁にたいそう叱られひっぱたかれるんだけど
懲りない旦那は抜き足差し足愛人の下に通い
二人は愛の逃避行、追う鬼嫁、逃げる旦那、
最後は見事逃げおおせて抱き合う二人、といったハッピーなコメディー。
映像的にはチャップリンよりも圧倒的にキートンを思い出す。
とりあえず、バルトークってやっぱ、いいよな?おい、と思った。
後者はおまけとして聞きたい曲なのだが
おまけもおまけ、
主役を食う名曲かつ名指揮者。
ちなみに
チェリビダッケの庭』というDVDにて
チェリビダッケによる『管弦楽のための協奏曲』のリハシーンがあり
ピッコロソロのシーンは
あごはずれますぜ、あまりに音って美しいと思い知らされて。


シェーンベルク
浄められた夜』『第二弦楽四重奏曲
サロネン指揮、ストックホルム室内楽
『汚れた手』では前者が使われていました。
シェーンベルクの中では圧倒的に聞きやすい名曲でしょう。
一度は生で聞いてみたい曲です。
連想するイメージはというと、
「『ムンクの叫び』で叫んでる奴が叙情的に最後の雄たけび上げて安らかに死んでいく」そんな感じ。


これでどんな感じか忘れたら、アホ。


ほかにショスタコとかが使われておりました。
ちなみにショスタコ交響曲第九番が最高です。
歴史上運命的とも言えるぐらい
九番目の交響曲は音楽家最後の集大成となるようなものが多いため
「国家的に」期待されたショスタコはこの九番目を利用して
政府をバカにしてて痛快なのです。
なので曲としては小品ですが。
ちなみにショスタコはShostakovichとつづられているのに
フランスだとChos…とつづられCD探すときややこしいんすけど
あれは何でなんでしょう?
シェーンベルクシェーンベルクのままなんだけど、
やっぱりロシア語との兼ね合いがなんかあるのかね。


ついでに
サルトルが拝めるドキュメンタリー映画
『想い出のサンジェルマン』っつーのがあります。
サルトルの他、嫁はんだけでなくコクトー、ヴィアン、アルトー(もだったかな?記憶違いかも)グレコ。。。と
傾向はもとよりジャンルの問わないビッグネームが出て来て、
贅沢な映像が拝めます。

ユゴー
嘘もつかない、信念も曲げないとあなたのことを思っております。嘘を認めるなんてありえない。


Hugo : Vous avez si vrai, si solide ! Ça n’est pas possible que vous acceptiez le mensonge.


ウドゥレール
わしらは戦争中なのだよ、兵士にいちいち作戦を知らせるご時世ではないのだ。


Hoederer : Nous sommes en guerre et ça n’est pas l’habitude de mettre le soldat heure par heure au courant des opérations.


ユゴー
嘘の何たるか、あなたよりも存じております。私の父の家では皆が嘘をつきあっておりました。入党してからやっと私は胸をなでおろしているのです。初めて他人に嘘をつかない人々に出会ったのですから。


Hugo : Je sais mieux que vous ce que c’est que le mensonge ; chez mon père tout le monde se mentait. Je ne respire que depuis mon entrée au Parti. Pour la première fois j’ai vu des hommes qui ne mentaient pas aux autres hommes.


ウドゥレール
いったい何のことだ?


Hoederer : Mais de quoi parles-tu ?


ユゴー
わが党のことです。


Hugo : De notre Parti.


ウドゥレール
わが党のことだと?いやいつだってここで少しばかりの嘘をついてきた。どこだって同じだ。それにユゴーよ、お前だって、絶対に自分に嘘をついたことがない、絶対に嘘をつかなかった、今このときでも嘘をついてないとはっきり言えるのか?


Hoederer : De notre Parti ? Mais on y a toujours un peu menti. Comme partout. Et toi, Hugo, tu es sûr que tu ne t’es jamais menti, que tu n’as jamais menti et que tu ne mens pas à cette minute même ?


ユゴー
同志に嘘をついたことはありません。人を馬鹿にしかつげたところで、解放のための闘争には何の役にも立ちません。


Hugo : Je n’ai jamais menti aux camarades. A quoi sert de lutter pour la libération des hommes, si on les méprise assez pour leur bourrer le crâne ?


ウドゥレール
必要とあらば私は嘘をつくだろうが誰も馬鹿になどしないぞ。嘘をでっちあげたのは、それは私ではない。階級に分かれた社会の中で生まれたのであって、我々各々が生まれながらにして受け継いだものなのだ。嘘をつくことを拒絶すれば嘘を言わずにすむということではないのだ。階級を失わせるために手練手管を尽くすことによってなのだよ。


Hoederer : Je mentirai quand il faudra et je ne méprise personne. Ce n’est pas moi qui ai inventé le mensonge : il est né dans une société divisée en classes et chacun de nous l’a hérité en naissant. Ce n’est pas en refusant de mentir que nous abolirons le mensonge : c’est en usant de tous les moyens pour supprimer les classes.


ユゴー
あらゆる手練手管は正しくありません。


Hugo : Tous les moyens ne sont pas bons.


ウドゥレール
手練手管は正しいものだよ、効果があればね。

Hoederer : Tous les moyens sont bons quand ils sont efficaces.


ユゴー
それでは、どんな権利であなたはレジャン政府の方針を断罪するのです?URSSに宣戦布告をした。それが国家の独立を維持するには最も効果的な方法だったからです。


Hugo : Alors, de quel droit condamnez-vous la politique du Régent ? Il a déclaré la guerre à l’U.R.S.S. Parce que c’était le moyen le plus efficace de sauvegarder l’indépendance nationale.


ウドゥレール
私が断罪していると?レジャンのやったことはその階級のどんな輩でも代わりにやったであろうことなのだ。我々が闘っているのはどこかの誰かに対してでも何らかの政策に対してでもなくその政策それら人間を生み出す階級に対してなのだよ。


Hoederer : Tu t’imagines que je la condamne ? Il a fait ce que n’importe quel type de sa caste aurait fait à sa place. Nous ne luttons ni contre des hommes contre une politique mais contre la classe qui produit cette politique et ces hommes.


ユゴー
じゃあ階級闘争のためにあなたが見出した最良の方法は、権力を分けることなのですか?


Hugo : Et le meilleur moyen que vous avez trouvé pour lutter contre elle, c’est de partager le pouvoir ?


ウドゥレール
今では、それが最良の方法だ。(一拍置いて)なんて自分の純粋さに執着する奴なんだ!なんて自分の手を汚すことを恐れる奴なんだ。純粋のままでいるがいい!そんなもの誰のためになるんだ、だいたいなんでお前は俺たちの仲間になったんだ?お前らのようなものは、知識人もブルジョワアナーキストも能書きたれて 何もしやしない。つったっけおけばいい、手袋をつけておけばいい。おれの手は汚ごれている。肘までも。糞に血に手を伸ばしてきたんだ。それからか?無邪気に国が治められるとでも思ってるのか?


Hoederer : Aujourd’hui, c’est le meilleur moyen. Un temps Comme tu tiens à ta pureté ! Comme tu as peur de te salir les mains ! Eh bien reste pur ! A qui cela servira-t-il et pourquoi viens-tu parmi nous ? Vous autres, intellectuels, anarchistes bourgeois, vous en tirez prétexte pour ne rien faire. Rester immobile, porter des gants. Moi j’ai les mains sales. Jusqu’aux coudes. Je les ai plongées dans la merde et dans le sang. Et puis après ? Tu t’imagine qu’on peut gouverner innocemment ?


Les Mains sales, 1948, 5e tableau, sc., 3.