マラルメ「類推の魔」


マーちゃんの(あ、マラルメのことね)
有名な言葉に
「何があるかではなく何を意味するか考えなさい」というのがある。
ヴァレリーとかジードとかクローデルなんかが若い頃に
しばしばこういって、ひたすら類推トークをしたという。
類推とは、簡単に言うとあれとこれは似てますな、みたいな話。
ドランクドラゴンの塚地と金正男は似てますな、みたいな話。
火曜会でのマーちゃんはさながら話す萩原朔太郎みたいだったのでしょう。


というわけで
ローデンバックがちろっと小出しにしてる
「<類推>の魔」という言葉、
これと同じ言葉を冠した散文詩マラルメにもある。
初期の散文詩群は
掛け値があってもつまらなく、
先輩のボードレールの方がずっと面白いと思うのだけれど、
この「類推の魔」は若年期渾身の一作と言えるものだ。
一言で言うと
予知的な出来事が起こったという散文詩なのだが
不気味さが見事に漂っていて
マラルメを最も認めていた
ヴィリエが、
自ら編集長を務める雑誌に
マラルメ君、なんか未発表の原稿はないっすか?」と
催促したところ、
これにのった詩人がほいほいとこの散文詩を送ったまではよかったが
「これはあまりにもブルジョア向きじゃない」と
掲載を拒否されたというエピソードが残っております、
あの最も「ブルジョア向きじゃない」ものを書き続けたヴィリエに。
この詩にはブルトンもぞっこんだった、
という話をどっかで小耳にはさんだけれど
さもありなん、と思わせる作品です。
それでは冒頭と末尾をかいつまんで、
ちらっと、先日の『死都ブルージュ』を思い出しながら。

 聞いたこともない言葉が君の唇の上で歌ったのか、意味のなさぬフレーズの呪われし切れ端が?


 私が外出するとき、はっきりと、ひきずるようで軽やかな、弦楽器の上を滑る翼を感じたのだが、下がり調子でこういう言葉を発する声がそれに変わったのだ、「ラ・ペニュルチエームは死んだ」と。こんな風に、


                 <ラ・ペニュルチエーム>
が詩行を閉じ、それから
         <が死んだ>
                              が意味の空虚の中、一層無益に運命的な宙吊り状態から切り離されたのだ。通りに歩をすすめこの<ニュル>(無)という音に、張られた楽器の弦を認めたのだが、それは忘れられていたもの、確かに栄光に満ちた「思い出」が自らの翼や棕櫚でそこにやってきたばかり、神秘の業に指を置き、私は微笑み知的な願いから異なる思弁を乞うたのだ。


Des paroles inconnues chantèrent-elles sur vos lèvres, lambeaux maudits d’une phrase absurde ?


Je sortis de mon appartement avec la sensation propre d’une aile glissant sur les cordes d’un instrument, traînante et légère que remplaça une voix prononçant les mots sur un ton descendant : « La Pénultième est morte », de façon que


      La Pénultième
finit le vers et
        Est morte
se détacha
de la suspension fatidique plus inutilment en le vide de signification. Je fis des pas dans la rue et reconnus en le son nul la corde tendue de l’instrument de musique, qui était oublié et que le glorieux Souvenir certainement venait de visiter de son aile ou d’une palme et, le doigt sur l’artifice du mystère, je souris et implorai de vœux intellectuels une spéculation différente.

 だが超自然的なるものの否定しがたき侵入がどこに留まっているのか、断末魔が始まり、その下で先ほどまで統べられていた我が精神が悶絶するのは、気の向くままに辿りし古物商の通りで、私が目を上げ、壁に古楽器を吊るす楽器商の店先で、地面には黄色くなった棕櫚、物陰には古鳥の翼を見たそのときだった。私は逃れた、奇怪にも、おそらく不可解な<ペニュルチエーム>の喪に服さざるを得ない者として。


Mais où s’installe l’irrécusable intervention du surnaturel, et le commencement de l’angoisse sous laquelle agonise mon esprit naguère seigneur c’est quand je vis, levant les yeux, dans la rue des antiquaires instinctivement suivie que j’étais devant la boutique d’un luthier vendeur de vieux instruments pendus au mur et, à terre, des palmes jaunes et les ailes enfouies en l’ombre d’oiseux anciens. Je m’enfuis, bizarre, personne condamnée à porter probablement le deuil de l’inexplicable Pénultième.

Stéphane Mallarmé, "Le Démon de l'analogie", Œuvres complètes II, édition présentée, établie et annotée par Bertrand Marchal, La Pléiade, 2003, p. 87-88.