アポリネール『ルーへの手紙』

マリーの墓(ペールラシェーズ)




この一週間残高16サンチーム(日本円で20円ぐらい)で乗り切った。
さすがに
あ〜スリしてぇ〜
アラブ人みてぇに
スリしてぇ〜と思ったものだ。
何の因果かこの2年で6,7回すられかけたことがあったが
みなしてアラブ系だった。
一方でものすごーーく人懐っこい人も多いから困ったものだ。
なんとかタイ米でしのぎ切り
サンタっているんだね、
23日にお金が入ったので
念願の
本を一冊注文し
朗読CDを二枚ゲットした。
本は
Lombard (Alf), Les Constructions nominales dans le français moderne, étude syntaxique et stylistique, Uppsala.という代物で
確か30年代の古い本だったかと思う。
フランス語そのものの研究書なのだが
19世紀の作家の文章を例にしているというので前から欲しかったものだ。
CDはアルフレッド・ジャリ、『ユビュ王』の録音。
1954年とあるので歴史的音源なのだろう。
舞台監督の名がフィリップ・スーポーとなっている。
冒頭の音楽からしNHKの子供番組のような人を小ばかにした音楽なのだが
最初のセリフがMerdre!(Merde!ならクソッタレ!)で
字で読んだだけではあんまりおもしろくないのだが
カエルのような鳴き声でメ〜ルドル!とことさらに
Rの音を強調して叫ばれると
フランス語を知らずとも噴出してしまう
お馬鹿芝居だ。
赤ん坊が変な声に反応して笑ってしまう、あれと同じレベルの笑いだ。
予想以上に笑ってしまい、買って正解。
二枚目は
笑いの後に涙あり、ということで
あれはいつごろだったか
半年ぐらい前か、
マリー・トランティニャンというフランスの女優が
彼にぶん殴られて殺されるという事件が起きた。
さすがにフランスではこの話題で持ちきりだったが
初めてこの知らせを聞いたときに
ふっと思い浮かんだのは
マリーの顔を知らないせいもあり
親父のジャン=ルイの顔だった。


ちょうどその頃、
オヤジから手紙が来た。
オヤジは中卒なので大層苦労して文章を綴ったのが読んで分かった。
ときには助詞の「は」を「わ」と思わず書いてしまって
あわてて訂正した箇所もあった。
ありがたく思って早速実家に電話すると
オヤジは
「もうお前ぐらいになると、オレの文章なんかアホ丸出しに見えるんやろうなぁ」と言うのだ。
最近、こういったことをよく言われるのだ。
そのたびに自分の立場にハッとする。
のんべんだらりと辿ってきたから全く気づいていないのだ、自分の立場に。
肩書きからすると、人によっては何かおれは高いところにいるらしいのだ。
本人に自覚症状がないだけに
というかむしろなんとならば
社会のくずとさえ思っているだけに
こう言われると無性に寂しくなる。
見下げられてひとり、見上げられてひとりなのだ。
もう、やめたらぁ、勉強なんてとさえ思う。
「字の間違いなんかより気持ちや、気持ち」とありていに答えたはずだ。
「まぁ、取り合えず、俺よりは長生きしてくれよ、それだけは頼むで」
と体の弱い俺をおもんばかってかこんな言葉で会話を終えたかと思う。
だから、余計にジャン=ルイの顔なのだ。
それから何ヶ月かして
ジャン=ルイがアポリネールの朗読ライブを行うという看板を見かけた。
あ、仕事してる、漢やないか!とちょっと行こうかしらんなどと思ったのが
どうせ聞いてもわからんやろしと結局出不精風を吹かせ、そのまま行かなかった。
以前、ジャン=ルイ・トランティニャンの朗読で
アラゴンの短編小説(『さよならワルツ』と訳されているのだろうか?)が出ていて
これが実によかったので、またCD化して下さいと期待していたのだけれど
案の定、出ていて、買ったのがこの『アポリネール 『アルコール』・『ルーへの手紙』』。
音楽もこのシリーズは凝っていて
ダニエル・ミルというアコーディオン弾きが
今回はサティーの調べを奏で
朗読の合間合間を彩っている。
それで
なぜアポリネールなのか?ということなのだが
ほかでもない、
娘マリーの愛読書だったからだそうだ。
この朗読は鎮魂歌なのだ。
少なくともCDでは
立派に最後まで泣かずに読みきっている。
娘の部屋で押し殺した声で呟きながら読んでいる情景さえ思い浮かぶ。
それから
最後から二番目、「Les attentives」(日本語にする勇気がない。「かいがいしい女たち」とかか。)の朗読は
娘マリーによるものだ。
これがまたこもってはいるが綺麗な声で
天国から読んでるかのような雰囲気を醸していて
最後の一文「それは小さな兵隊わたしの兄弟わたしの恋人」だけ親父が読むという構成になっている。
そうして最後、
「〜ほしいのです」「〜ほしいのです」と延々と続く詩で
一瞬
親父は声を詰まらせる。
「いつも君を感じるために僕の心になってほしいのです」
というフレーズを読むときに。


ああ
忘れられない一枚になってしまった。


(アポリネール及び『ルーへの手紙』についてはhttp://d.hatena.ne.jp/jedisunefleur/20031206#p1)


今日の一枚
Voix Jean-Louis Trintignant
Musique Daniel Mille (Choral)
Erik Satie (Gymnopédie n°1, Airs à fraire fuir, Gnosienne n°1 )
"Extrait de Poème à Lou, Alcools"
Auteur Guillaome Apollinaire



この夜塹壕で死に行く者
それは小さな兵隊わたしの兄弟わたしの恋人


だって彼が死に行くのだもの綺麗におめかししたいのよ
わたしのむき出しの乳房に火をともしたい
わたしの大きな目で凍りつく池を溶かしたい
それにわたしの腰がお墓になればいい
彼は死に行くのだから綺麗におめかししたいのよ
きょうだいみたいに愛し合い死んでゆくこんなに美しいことはない


それは燃えさかる狂おしい<愛>の時
それは<死>のそして最後の契りの時
枯れるバラさながらに命朽ち行く者
それは小さな兵隊わたしの兄弟わたしの恋人


Les Attentives

(…)
Celui qui doit mourir ce soir dans la tranchée
C’est un petit soldat mon frère et mon amant


Et puisqu’il doit mourir je veux me faire belle
Je veux de mes seins nus allumer les flambeaux
Je veux de mes grands yeux fondre l’étang qui gèle
Et mes hanches je veux qu’elles soient des tombeaux
Car puisqu’il doit mourir je veux me faire belle
Dans l’inceste et la mort ces deux gestes si beaux

(…)
C’est l’heure de l’Amour aux ardentes névroses
C’est l’heure de la Mort et du dernier serment
Celui qui doit périr comme meurent les roses
C’est un petit soldat mon frère et mon amant


ルーのためにギーは歌う


大好きなかわいい僕のルー 君に愛されている日に死にたいのです
君に愛してもらえるように僕はハンサムでありたいのです
君に愛してもらえるように僕は強くありたいのです
君に愛してもらえるように僕は若く若くありたいのです
君に愛してもらえるように戦争がもう一度起こっていたらと思います
君に愛してもらえるように君を離したくないのです
君に愛してもらえるように君のお尻をたたきたいのです
君に愛してもらえるように君に意地悪をしたいのです
君に愛してもらえるようにグラッスのホテルの一室で二人きりになりたいのです
君に愛してもらえるようにテラス側の僕の小さな書斎で二人きりで寝そべって阿片を吸いたいのです
兄妹のように君を愛すため妹になってほしいのです
若々しく愛し合えるように僕のいとこだったらと思います
長く長くずっと長く君に跨るために僕の馬になってほしいのです


いつも君を感じるために僕の心になってほしいのです
僕の行くところ行くところ君は天国や地獄となってほしいのです
君の先生であるために少年でいてほしいのです
真っ暗でも愛し合えるように夜になってほしいのです
君が一人きりでいられるように僕の命になってほしいのです
突然の愛で死ねるようにドイツ野郎の砲弾になってほしいのです


Gui chante pour Lou


Mon ptit Lou adoré Je voudrais mourir un jour que te m’aime
Je voudrais être beau pour que tu m’aimes
Je voudrais être fort pour que tu m’aimes
Je voudrais être jeune jeune que tu m’aimes
Je voudrais que la guerre recommençât pour que tu m’aimes
Je voudrais te prendre pour que tu m’aimes
Je voudrais te fesser pour que tu m’aimes
Je voudrais te faire mal que tu m’aimes
Je voudrais que nous soyons seuls dans une chambre d’hôtel à Grasse pour que tu m’aimes
Je voudrais que nous soyons seuls dans mon petit bureau couchés prés de terrasse sue le lit de fumerie pour que tu m’aimes
Je voudrais que tu sois ma sœur pour t’aimes incestueusement
Je voudrais que tu eusses été ma cousine pour que on se soit aimés très jeune
Je voudrais que tu sois mon cheval pour te chevaucher longtemps longtemps


Je voudrais que tu sois mon cœur pour te sentir en moi
Je voudrais que tu sois le paradis ou l’enfer selon lieu où j’aille
Je voudrais que tu sois un petit garçon pour que être ton précepteur
Je voudrais que tu sois la nuit pour nous aimer dans les ténèbres
Je voudrais que tu sois ma vie pour être par toi seule
Je voudrais que tu sois un obus boche pour me tuer d’un soudain amour