ルレ・ルノロー社(アングレーム)とノール焼(オルシー、サンタマン、アマージュ、ムーラン・デ・ルー焼)


こまったときのサンドリエ[灰皿]である。
にんにく切った、
たまねぎきざんだ
ピーマン切って、となると
必ずやいくつかの破片がまな板の外で場外乱闘ということになる、
そんなときのサンドリエ。
小皿として用いている。
プラスティックみたいにタバコの熱で焦げ付いたりしていないしね。
また陶製のサンドリエ、
オブジェとして廉価な割にはずれが少なく、
昨今、プラスティック製に場所をゆずっているだけに
この、写真ではあまりわからないが、
光沢、重み、ノスタルジックな広告デザインと相まって
マニア心を刺激するというのもうなずける。
私はと言うと
デザインそっちのけで
一目散にどこの焼き場だと裏をチェックしてしまうのだが。
今回は
BEURRE DES CHARENTES POITOUと書き込まれた、
アングレームの在る地方名を冠するバター会社の灰皿と
チンザノの灰皿だ。


前者にはフランス西部のアングレームという都市名とともに
ルレ・ルノロー[ROULLET RENOLEAU]の刻印がある。
骨董的価値が高いのは
先代のアルフレッド・ルノロー[1854−1930]なのだが、
この人、
散髪屋だったのだが、
何にでも興味を持った人のようで
書くは描くは、ヴァイオリンは奏でるはで、
挙句の果てに焼き物の工場まで作ってしまった。
最初こそ、
ムスチエ焼やストラスブール焼のデザインを真似ただけのものだったが、
時代を経るにしたがって
アール・ヌーヴォー風、アール・デコ風など当時モダンなデザインのみならず、
ルイ何世風といったクラシックなものまで
独自色を伴った作品を数多く作り、
晩年にはレジオン・ドヌールまで授与されたそうだ。
現在はその甥であり養子であった人が引き継ぎ、
ルレ・ルノローを名乗っている。
関係ないが
この名、フランス語発音だと発音しにくい。


次は有名なチンザノの灰皿。
これはノール県のものだ。
ベルギーとの国境、
北県、とは
ほとんどやっつけで付けられたかのような県名だなと思うのだが、
ここの焼き物の刻印は
欲張りである。
この北県の都市名がずらーっと列挙されているのである。
Norchies, Saint Amand, Hamage(Wandignies-Hamage)が
風車の刻印を取り囲み、
その風車の真ん中に
MDLの文字。
Moulin des loupsの略号である。
十九世紀末に
トゥルネーという
ベルギーのやはり陶器で有名な町から
ひとりの職人がこのムーラン・デ・ルーと呼ばれる場所に工場を据えたのが始まりなのだが、
その近辺の工場を買い取って
規模を広げていったようである。
だから、昔のものを探せば、
都市名がひとつだけのものがあったり、
はたまた二つだけのものがあったり
あっちいったりこっちいったりで
なんだか場合の数の問題を解かされいるようで
混乱してくるので
いっそ全部一緒のものをと探して出会ったのがこれ。
全部一緒と言うことはそれだけ最近のものということで
骨董的価値は二の次三の次な人間にとっては
廉価だしありがたい。
ちなみに、
この北県系でもっとも親しみ易いデザインのものを多く作っているのは
サン・タマンだと個人的には思う。


それにしても
この手の
「フランス・アンティーク」の灰皿の相場を
日本のヤフー・オークションなんかで見てみると、
だいたい2000円から3000円になっとります。
ネットオークションでの
こちらと日本の「フレンチ・アンティーク」の相場は
大雑把だけれど、
桁が一つ増える、しばしば十掛け、ということでいいかと思う。
バブルと言えば
土地とか株かもしれないけれど
物価バブルというのもあり得るような気がしてしょうがない。
いかに舶来とはいえ、
桁を増やすほどのものでもないだろうに、という気にもなる。
まぁ需要と供給の問題だから
とやかく言うことじゃないのかもしれないけれど、
そのうち
英語もインターネットもできて当たり前となれば、
誰も国内の輸入品なんかに目を向けることなく
現地のサイトで直接買うということになるだろう。
国内旅行が高くつくからハワイにでもっていう
発想が当たり前になってしまってる事態そのものが
異常じゃないかと思うんだが。
ただひたすら
国外に金をばらまいて
景気がよくなったりするとは思えない。
かといって価格破壊にとびつけば
半ば元から破壊されていたマンション握らされたりもして、
古物を集めてみてしばしば思うことは、
少なくとも経済的には、
「もう、無理じゃねぇ?日本」ということだ。
経済学のケの字も知らないおれが言うことじゃないんだが。