あかの他人

帰国後初めて居酒屋というところに言って
ちょっとばかし酔狂になって山手線に久々に乗り込んだ。
土曜日だし夜もいい時間だというのにラッシュだった。
つりかわにしがみつきいびつな態勢でこらえていると
いつのまにやら
となりに外国人のカップルがいた。
耳を澄ますとどうやらフランス人である。
さすがに何か話しかけたくなったが
おれはそんな奴じゃぁないんだよなぁと結局しり込みしてるうちに、
彼のほうがついついつり革を手からはなしてしまったらしく
そのはねっかえりで頭をこつかれて
これがたいそういい音を立てたのだ。
いかにも中身がつまってなさそうな響きである。
「いい音したね〜」などと
フランス語がなつかしくって
話しかけたくなったのだけれど
それでもやっぱり話かけずにいた。
彼も彼で私の欲求など知らずに
その瞬間を見てなかった彼女に
状況を説明している。
そんなこんなでしばらくすると
私の降りる駅に着いたので
そのカップルの前を通してもらおうと
やっぱりフランス語でパードンだとかエクスキュゼモワでもなく
すみません、すみませんとつぶやきながら道をこじ開けようとすると
彼の方も日本語でスミマセン、スミマセンと言ったのだ。
それを聞いてなぜだか
あぁあかの他人なんだなという気がして
ちょっとばかし寂しくなったよ。