読書メモ、なんとかシュリンクの『朗読者』

もちろん私にだって女性の好みぐらいはあるのだが
それはそれ、
好みから少々ずれようがたいした問題ではない。
ただひとつわがままを言わせてもらうなら
おかんのようではない人、というぐらいだ。
先だっても
何気なくおかんが
お母さんはわがままでお父さんがかわいそうとかって
思ってるんやろ?
などとあまりに図星な質問をしてくるので
へ、へ、へ、と笑ってごまかそうとしたら
な、そう思ってるんやろ?と
さらにしつこく羽交い絞めにするので
いやいや、そんなことあらへんで、と
息子に嘘をつかせる母親なのである。
だからこんな女いやだということになるのだが、
おかんのようではない明治を思わせる強い女を探そうというのは
どうやらたいそうわがままだったようで
つきつめて言えば
女の人を好きになれないということになる恐れだってある。
失われたオカンを求めて
などとのんきなことを言ってる場合ではないのだ。
そんなわけで
近頃おかんとよく話をするようにしている。
はっきり言って
メル友だ。
最良の、と言ってもよい。
なぜなら私の薦める本を逐一読んでは感想を送ってくれるからだ。
こんなに研究者冥利に尽きることはないのである。
ある日、
息子の学ぶ詩人のことを知ろうと思い立ったらしく
菅野昭正の大著『ステファヌ・マラルメ』を読んだという。
私自身も頭から尻尾までいわゆる読書をするように読んだことはない分厚い本を読んだというのだ。
その感想は
マラルメさんって友達がおおいんですね」だった。
青天の霹靂というのか
ざっくり凝り固まった脳天を割られるような思いこそする、
とてつもなくナイーヴな感想だ。
以来、
自分が読んで面白かったもの、
読みたいけど時間がないので代わりに読んでもらおうと思うもの、
それから
もちろんいたずら心だってこちらとしては忘れるわけにはいかない。
そんなわけで
ある日、
マラルメさんのお友達の小説家にユイスマンスという人がおってな
『さかしま』にはマラルメさんも出てくるよ、
おもしろいよーと薦めておいた。
そしたらまたぞろ読んだという。
曰く
「こんな小説もあるんですね」。
あるのである。確かにこんな小説もあるのである。
あるときは
新田次郎の妻、
藤原ていにはまったらしく、
その生き様への共感を熱心に報告してくれる。
そこで
作家の嫁がらみで
井上ひさしの嫁だった西舘好子『修羅の住む家』と
ひさしの母マスによる『好子さん!』を薦めてみた。
これは私自身は手にとってさえいないのだが
かねてから気になっていて
言ってみれば代読をお願いしたのである。
その感想は
「言いたいことを言ったら負けだと思います」
だった。
おこっとる、おかん、ちょっとおこっとると思いつつも、
失われたオカン像に近いものも感じた。
怒らせても
おつなことが聞けてなかなかいいかもしれない。
とはいえ
立て続けに怒らしては悪いので
今は何年か前に世界的ベストセラーになった
『朗読者』を薦めている。