アポリネール『ルーへの手紙』より「もしもかの地で死んだなら」

jedisunefleur2003-12-06



もしもあの前線で死んだなら
愛しいルー君は泣く日もあるだろう
それからぼくの思い出は消えてしまうことだろう
まるで前線で炸裂した砲弾
花咲くミモザにも似た美しい砲弾のように


それからこの思い出は空高く炸裂し
ぼくの血で世界の隅々まで覆いつくすことだろう
海や山に谷に過ぎ行く星を
バラティエの周りのきんいろの果実がそうであるように
空高く熟れゆく素晴らしい太陽を


忘れられた思い出がどんなものにも息づけば
ぼくは薔薇色をした君のきれいな乳房の先を赤く染め
君の口や真っ赤な君の髪も赤く染めることだってできるだろう
まったく老けることもなくそんな美しいものすべてが
うっとりするような運命のためいつだって若返ることだろう


死ぬほどまでにぼくの血がこの世界に噴き出せば
太陽はもっと燦燦と輝き
花々はもっと色鮮やかに波はもっとうねりを早めることだろう
途方もない愛がこの世界に舞い降りて
その恋人は離れ離れの君の体のうちにもっと激しく生きるだろう


ルーもしもかの地で死んだなら忘れられた思い出
――熱狂の若さの愛の張り裂けそうな激情のときの
思い出を時折思い出しておくれ――
ぼくの血それは幸せで真っ赤に燃える泉
それでは幸せにねきれいでいるんだよ


ああぼくのただ一つの愛ぼくの大きな熱狂よ



1915年1月30日
ニームにて

ギョーム・アポリネール
Guillaume Apollinaire
(Rome, 1880 — Paris, 1918)
本名は
Wilhelm Apollinaris de Kostrowitzky
ポーランド人の母親をもつアポリネールはローマで非嫡出子として幼年を過ごした。
象徴派とシュールレアリスムの間に位置し 二十世紀の幕開けを告げただけでなく 二十世紀最大の詩人の一人。
ヤフーフランスの百科事典の説明によると
ランボーのように<見者>であり ヴェルレーヌのように失望を歌う音楽家であり マラルメのようにプレシューアポリネールは現代性のすべての道を切り開き詩の言語を再創造した」とある。
なかなか波乱に富んだ人生で 画家マリー・ローランサンとの恋愛や モナリザ盗難事件の被疑者として逮捕されたりしている。
代表作は『アルコール』や『カリグラム』であり 特に「ミラボー橋」は日本でも歌われ非常に有名。
詩のほかには劇作や絵画をはじめとする批評活動も活発に行い詩壇だけではなく二十世紀初頭のアヴァンギャルド芸術時代の寵児であった。

上の詩は日付が示すように第一次世界大戦に従軍した折に恋人に向けて書いた詩で『ルーへの手紙』の中の一編。
砲弾が炸裂するイメージに燃えるような思いを見事になぞらえていてアポリネール本人も自信作のようだ。

『カリグラム』などは読まなくても目に楽しいので入手してみてはいかがでしょう。
新潮文庫にあったように思う。