愛の賛歌いまむかし

ヴェルレーヌ『艶なる宴』より「貝殻」

二人愛し合った洞窟の 象嵌のごとき貝殻に ひとつひとつの味わいが。 ひとつは僕らの燃える赤 心の血潮を密かにうつし 僕は燃え立ち君は燃え盛る。 別のはしどけなく青白い君を 真似ているとからかう僕の目に、 けだるげに、君はむくれてみせる。 こっちは君…

ポール・ヴェルレーヌ『言葉なき恋歌』より「ストリーツ I」

ジーグをいっしょに踊りましょう! とりわけ好きなかわいいその目、 天の星より澄んでいた いたずらっぽい目が好きでした。 ジーグをいっしょに踊りましょう! 彼女はほんとに 哀れな男を悲しませ、 それがなんともたまりません! ジーグをいっしょに踊りま…

ピエール・バシュレ「エマニュエル」

愛のメロディー唄っていたのはエマニュエルの心 なくした体に打たれる心 愛のメロディー唄っていたのはエマニュエルの体 失意の心に生きる体 君はまだ あどけなく たったひとりの 男しか知らず けれど二十歳で 馬鹿はよそうと 愛は 長い長い旅に出る 愛のメ…

ピエロ・パオロ・パゾリーニ「教皇へ」

あんたの死ぬ何日か前、死が あんたと同じ年のある男に目を向けました。 二十歳のとき、あんたは学び、その男は労働者で、 あんたは、高貴で、お金持ち、男は下層階級のごろつきでした。 けれどもお日様のおかげであんたらのまわりで 古いローマはこんじきに…

アンリ・ミショー『僕ら今でも二人きり』

妻を火事で失った悲しみをつづった詩 アンリ・ミショー「僕ら今でも二人きり」ルー ルー ルー、ほんのひとときの走馬灯で ルー、ぼくと会わないかい? ルー、ずっといっしょの運命よって あれほど信じていたのに、 ねぇ? もう二度と合図をしてくれなかった…

マリー・ノエル「小さなシャンソン」

「小さなシャンソン」 あの人が黒麦の花咲く丘を 下りてくる ゆっくりゆっくり淡い畑を横切って...夕方のこと。 ほらあの人よ!――わたしどきどき しちゃわないかしら? そう、ほら、あの人がわたしのおうちをとおり行く ねえ、わたしのこと見つめないでね…

ボードレール『悪の華』より「踊る蛇」

ボードレール「踊る蛇」 なんと愛しいこの眺め 物憂げな愛しい人 君の綺麗な肉体の ゆらりゆらめく布地のような 肌のきらめくその様子! 深々とした君の髪 つんとにおいを漂わせ まるで香るさすらいの海 青とセピアの波のよう さながら船が朝風に 目覚めるよ…

アポリネール『ルーへの手紙』より「もしもかの地で死んだなら」

もしもあの前線で死んだなら 愛しいルー君は泣く日もあるだろう それからぼくの思い出は消えてしまうことだろう まるで前線で炸裂した砲弾 花咲くミモザにも似た美しい砲弾のように それからこの思い出は空高く炸裂し ぼくの血で世界の隅々まで覆いつくすこ…