ボードレール『悪の華』より「踊る蛇」

ボードレール

ボードレール「踊る蛇」


なんと愛しいこの眺め 物憂げな愛しい人
君の綺麗な肉体の
ゆらりゆらめく布地のような
肌のきらめくその様子!


深々とした君の髪
つんとにおいを漂わせ
まるで香るさすらいの海
青とセピアの波のよう


さながら船が朝風に
目覚めるように
我が夢見る魂もとも綱を解く
はるかかなたの空に向かって。


君の目には すいもあまいも
何もうかばず
鉄と金の混ざり合う
二つの冷たい宝石だ。


美しくも投げやりに
そんな調子で歩くさまなど
棒っきれの先っぽで
くねくね踊る蛇のよう。


怠惰がずっしとのしかかり
君の幼い頭はまるで
小象のように
あぶなっかしくゆれていて


身をかしいで寝そべれば
あたかも華奢な船体の
右へ左へ舳先を
水面にもぐらせるよう。


轟音とどろく氷河の
溶けて 膨らむ波頭さながらに
君の口のその水も
歯並のふちにおしよせれば


ボヘミアのワインを飲む心地
あの苦くも誇らしい
我が心に星 散りばめる
水のように澄んだ空を飲む心地!

9音5音という非常に軽やかな詩。
ボードレールのよさは 今日は ボードレールさん ごきげんだねぇ とか 今日はとっても 不機嫌だねぇ などと その詩によって ほとんど神経症的な躁鬱の波 人間臭さの塊を感じられるということだ。
その上 「踊る蛇」のように たとえご機嫌であっても どこか日本の風土にはあまりないような 蛇のように美しいなどという 悪魔的な賛辞がこめられていて 共感と同時に 心がさらに伸べ拡げられる思いもする。

この詩には レオ・フェレや なぜだかサンバ調でゲンスブールが 曲をつけ 褒める男性側に立って 歌っているが やはり カトリーヌ・ソバージュのような 正統派の女性シャンソン歌手が 褒められる側に立って 歌っているのを聞くほうが 断然味わい深いように思う。