デルータ



体系的に学んだこともなく、
いまだに焼きの専門的な技術なども大して知らずに
自分の体験と感覚だけで
何か編纂にも近いことをするというのは
なかなか楽しいことではある。
しかも
何か新たな興味に埋没し
いろいろとリサーチしてゆくと
みうらじゅんだとかクドカンなどといった
相当な目利きが既に食い散らかした後の祭り、
といった状況を決まって目にすることになるのだが
一部の陶器を除いて
ヨーロッパの地方の陶器だけは
日本の検索にかけてもめったに出てくることはなく
なかなか快感であった。
そんな五里霧中な体験の中でも
フランスモノではないとはいえ
これはどうもはずせないらしいという
焼き物がイタリアにある。
デルータ。


ルブールの最も静かなエリアのかなりの部分を占拠する
古い陶器の陳列台を
ぼんやりと眺め歩くと
目に入ってくるのが
パリッシーのバルボッティンヌや
リムーザンの暗くも神々しい青地の陶器、
そして最も華々しい、グロテスクでさえある、
イタリアはデルータの大皿である。
ルネッサンスから既に
知られていたこの焼き物は
いまだに
その伝統を誇り
世界に知られる窯であり続けている。
写真のオイル+ヴィネガー差しの
恐ろしいほどの絵付けは
やはりルネッサンス以来の
気分を滅入らせる作風だ。
しかも
なかなか使えないやつなのだ。
お酢を注ぐときには
傾けすぎると
オイル差しからオイルが漏れ出、
手がねとねと、
逆にまた
オイルを差すときには
お酢がサラサラ漏れ出、
手から手首まですっぱい香りの線を引く、
なかなかできの悪い子なのである。
とはいえ、
なぜだか憎めないのだ。
できの悪い奴ほど愛しくなるというやつだ。
部屋に来て
これを見た者は、
あるときはあからさまに揶揄し、
またあるときは見なかったふりをするのだが、
その都度、
彼ら双頭の焼き物への情があふれて来る、
そんな不思議な魅力を放つオイル・ヴィネガー差しなのだ。